Chemistress - 春の巡礼の記録 -

4月,自分は世界を回すために生きていると思っていた.世界が早く回ればそれで自分の体は千切れても良いと思っていたし,足の軋みすらその駆動の源だった.

人は,生きる理由が,生きなければならない理由が代入されると加速するという話をしたね.あの時の自分は,まさに巡礼を始めたばかりの第一の子であった.

 

5月,自分の体が動かなくなる.碇シンジはよくあの状況で初号機を動かしたと思う.自分も,母に着替えを助けられ薬を増やしてもらいに行った.原因の半分は貴様らなのだから,礼こそ言うもののもはやどうでもいいとすら思えていた.失意は,「それでも」という逆説を奪うからこそ失意なのだけども,それを援助ありとはいえ乗り越えた自分を褒めてやりたい.しかし,褒めるにはまだ早い.533の鎖は未だ.

 

6月,レディ・スピネルと出会う.自分は本当にあの狼のように飄々と笑っていたかったし,最後の最後に手の届かない人たりたかった.あと四半月あるが,さてどうなることか.できれば人売りの妖精たちには,アニスと出会ってほしいものだ.

 

今日の話をしよう.

元々は自分の同窓として亀甲を描いていた者が,より強い者の前で黙り,早口でまくしたてられていた.現実として見ればそれだけの事なのだけど,それだけの事が一番自分にとってはストレスである.自分のストレスはもっと大きいものばかりなのでさほど気にも留めない.些事である,自分の身にすればね.しかし,他者という鏡を介して受けるストレスは耐え難い異質性を持つ.自分の痛みはもはや些事だというのに,なぜ鏡に映すだけでこれだけ鋭利になるのだろうか?自分にはもはや分からない.同窓の者の吃音のせいか?日本語が少し下手という認識からだろうか?

こんなとき,狼たれれば.何も思わず,人間失格者としてただ笑みを浮かべられれば.そんなに楽な事はなかったろうに.