詩は,人生の切り売りだよ.

ひどい天気だ.こういう日は,網戸にして梅雨寒に毛布をあてがいながら,ソーシャルゲームの周回でもやっておいたほうがいい.”詩は,人生の切り売りだ”と言おうとしてやめたところで,自分はそこまで詩に身を窶していない事に気づいた.自分ってのがどんな存在か雨音にかき消されるような気を持ちながら,それでもそれを求めて雑踏に紛れようと都会へ出たこともあった.それが今では,自分はどうしてもかき消えない存在になっていた.なってしまっていた.今や自分を紛れ込ませかき消してくれるのは,乗換が混雑するので車両のドアに集る蛾と,ひっかき傷すらつけようのないパチンコ玉の雨だけになってしまった.雨音はどうにも心臓をねちっこくそのまるい表面で圧迫してくるし,容易に砕けた雨は靄になって道に迷わせる.いくらきれいにしたってそれをぐちゃぐちゃにする癖は治っていない.傷痕を見ては舌が濡れるし,瘡蓋を見ては爪が伸びる.結局は崩す積み木にすぎない.詩は,人生の切り売りだよ.